2026/08/19 11:45

「契約書なんて、ChatGPTに『業務委託契約書を作って』と頼めば数秒で完成するから十分」

そう思っていませんか?

確かに、AIは一見それらしい、整った文章の契約書を出力してくれます。弁護士や行政書士に頼む費用も浮くため、クリエイターや個人事業主の間で「AI契約書」を使う方が急増しています。

しかし、法律の専門家から見ると、AIが作った契約書をそのまま実務で使うのは「ノーヘルメットで高速道路をバイクで走る」ような危険行為です。

今回は、なぜChatGPTで作った契約書をそのまま使ってはいけないのか、取り返しのつかないトラブルに発展する3つの致命的な理由を分かりやすく解説します。


理由1:日本の著作権法特有の「落とし穴」を回避できない

AIが生成する契約書で最も事故が多発しているのが「著作権」に関する条項です。

AIに「著作権をすべて発注者に譲渡する条文を作って」と指示すると、大抵は次のような文言を出力します。

AIがよく出すNG条文例:

「乙が作成した成果物の著作権は、すべて甲に譲渡されるものとする。」

一見問題なさそうに見えますが、日本の著作権法第61条第2項には恐ろしいルールがあります。

著作権法第61条第2項の要約:

著作権を譲渡する場合、「第27条(翻訳・翻案権)」と「第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)」を契約書内に具体的に明記(特掲)しなければ、それらの権利は譲渡されず、相手(受注者)の手元に残ってしまう。

もしAIが出した条文をそのまま使ってしまうと……

  • 漫画を単行本化・アニメ化・グッズ化しようとしたとき

  • イラストを別媒体でトリミングや加工して再利用しようとしたとき

  • 納品された動画素材を二次利用しようとしたとき

「その権利は譲渡されていません」と後から主張され、巨額の追加使用料を請求されたり、商業展開がストップするリスクがあります。


理由2:最新の法改正や「偽装請負」リスクに対応していない

2024年に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」や下請法など、日本の取引に関する法律は目まぐるしく変化しています。

一般的なAIは、インターネット上の過去の膨大なテキストを学習しているため、以下のような実務判断が抜け落ちがちです。

  • 最新法で義務付けられた「書面明示すべき項目」が漏れている

  • 発注者側に有利にしすぎて、法的に「無効」と判断される条項が含まれている

  • 業務委託なのに指揮命令が強すぎる文言になっており、「偽装請負(違法な雇用関係)」とみなされるリスクがある

「AIが作ったから安心」と思って交わした契約書が、実は法令違反の証拠になってしまうことすらあります。


理由3:相手から「この条文を消して」と言われたとき、戦えない

AIが教えてくれるのは「文字の並び(ドラフト)」だけです。

実際のビジネスで一番怖いのは、契約書を相手に渡した後に「この条文、自分に不利なので削ってください」「ここを直してくれませんか?」と交渉を持ちかけられた瞬間です。

  • その条項を削ったら、自社にどんなリスクが発生するのか?

  • 絶対に譲ってはいけない「生命線」はどこなのか?

  • 相手を怒らせずに、角を立てず断る「切り返し文」はどう書くべきか?

条項の本当の法的意味を理解していないと、言われるがままに修正を受け入れてしまい、結果として自分だけが全責任を負う「形だけの契約書」に成り下がってしまいます。


契約書の本質は「テキスト」ではなく「トラブル時の盾」

契約書は、何もトラブルが起きない平時にはただの紙切れ(データ)です。

しかし、ひとたび「納期の遅延」「データの流出」「著作権の主張」「報酬未払い」が起きた瞬間、あなたと作品、そしてビジネスを守る唯一の「盾」になります。

その盾に、AIが気づけない小さなヒビが入っていたらどうなるでしょうか?

「安く済ませるためにAIで作った結果、後から数百万円の損害賠償や訴訟トラブルになった」では本末転倒です。


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